第4回市民科学者国際会議より




※画面上の資料は後程追記する予定です。
 みなさん、おはようございます。おしどりマコといいます。よろしくお願いします。ありがとうございます。
1なんかあの、先ほどご紹介していただいたとおり、私は原発事故の取材に関してといいますか、2011年原発事故があってから取材を始めたので、とてもビギナー、新人なのですね。なのでこのセッション『情報とメディア』で話す機会を戴くということは、とてもおこがましいと思っています。「おこがましい」ってどういう英語なんでしょうね?ちなみに(笑)

 まぁ、でも新人ということは、大変に今回に関してはメリットがあると思っていて、一つはこの日本の原発事故における報道というものに対して、すごくフレッシュな目でものを眺めることができたということ。もう一つは、まぁ、あの・・・そうですね、あまり失うものがないので、自由にものを言えるということ。
一番新人ということは、情報の受け手=読者に一番近い立場で取材をできるということが、私は大変メリットがあると思っています。
 それで原発事故の後から取材を始めまして、私が見たこと感じたことを今日皆さんにお話しようと思います。

 今日お話しすることは、いろいろな情報のゆがみ、報道のゆがみ、そして3年半見てきまして、そのゆがみを正すことができるのかどうか、というのも考えて、その提案もしたいと思います。
 
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 まず一つ目は、原発事故の報道のゆがみ。
 少し私早口ですね、ゆっくり話します、すいません。
 原発事故の報道のゆがみ
 私は2011年から取材を始めまして、いろいろなものを見ました。スポンサーの問題。日本はとても電力会社が強いので、テレビやラジオ、雑誌ではあまり先輩の記者の方々は自由にものを言えないようでした。そしてもちろん国からの圧力。これが意外とあるんですね。なんとなく。
 スポンサーの問題と国からの圧力がありますと、メディアは実質自主規制を言われなくてもしていくようになってしまいます。
 そして3点目の問題として、新人の私が言うのは本当におこがましいのですけれども、記者の方々の知識が乏しいというのもとても残念なことになっていると思います。
 
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 具体例をお話いたします。
 いろいろ、どの新聞社、どのテレビ局、どの雑誌がどういう圧力を受けたというのは、又聞きで直接記者の方々から聞くんですけれども、そういう風のうわさというのではなく、直接私たち、おしどりに起こったことをお話しようと思います。

 2011年にいろいろ雑誌に記事を、週刊誌や月刊誌に記事を書きますと、電事連=電力事業連合会と呼ばれる電力会社の連合会ですね。そこから編集長のほうに圧力がきました。電事連というのは、雑誌社に対して、大4変広告料という形で意見を言えるんですね。で、編集長に2011年に
「おしどりの記事を1回載せるなら、原子力推進の記事を3回載せろ。それでバランスをとれ」
という指示が来たんですね。担当の記者さんと話をしていて、
「これ、1対3だとバランスとれないですよね」
という話をして。
 2011年に原子力推進の記事が3倍載るのはとても嫌なことだったので、編集の方と話し合って、記事を取り下げました。
 それで2011年は載らずに、では2012年の3月に、原発事故から1年目ということで、その時期に載せようという話になったのですが、また同じように電事連のほうから、今度はカラーのすごく綺麗な全国の桜を紹介するという広告が挟み込まれて、結果私たちの記事は載りませんでした。
 そういう電事連の圧力もあります。
 そして、広告会社による圧力
 これは私たちが2011年にテレビやラジオで原発のこと、東京電力のこと、取材をしている内容を話すというときに、広告会社の方から、
「おしどりをテレビに出すな」
「テレビで『原発』と『東電』という単語を一切出させるな」
という指示が来ました。まぁそれは報道番組ではなく、私たちはおしどりといって、今写真を撮っているのが相方でhusbandなんですけれども、漫才、コメディアンをしております。コメディアンとしてバラエティ番組のテレビで『東京電力』と『原発事故』のことを話すというのは、絶対にやらせるなという指示が来ました。
 その番組のスタッフとも仲が良かったので、番組名とテレビ局名を一切出さないという約束で、この話をあちこちでネタにすると、その2か月後、その番組自体が打ち切りになりました。
 このように、割と広告会社はこういう形、スポンサーという形で、テレビの情報もコントロールしているのだなということに気づきました。
 各地の電力会社による圧力
 これは先ほど言いましたとおり、私は漫才という仕事もしてるんですけれども、報道の仕事ではなく、コメディアンとして例えば富山県に仕事に行きますと、そこの舞台に北陸電力から、その地域の電力会社から身分照会という電話が掛かってくるんですね。
「おしどりはどういう芸人ですか?」
というふうに電話がかかってきますと、その地域では電力会社というのは、地域の経済社会でとても強い力と持っておりますので、
「なんだかわからないけれども、電力会社から身分照会が来るような人間を使わないでおこう」
というような自主規制が働いてしまいます。
 でもまぁこういうような話を私が知ることができるというのは、呼んでくださった仕事の方々と仲が良いので、「こういうことがありましたよ」と教えていただけるのですが、実際はこの数倍同じような形で仕事がふわっと消えていっているのではないかと周りから聞きました。

 次の圧力ですね。
 次は国からの圧力。
 これはですね、環境省のホームページに載っている文言なんですけれども、少し小さいですね。申し訳ないです。
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 これは今年の3月11日に放映されたテレビ朝日の報道ステーションの甲状腺検査に関するニュースに対して、環境省が物申すという形でホームページにいろいろ反論を載せたんですね。この報道ステーションのディレクターと私は大変仲がよくて、今年のニュースを作った時にたくさん情報提供や取材源の方々の紹介をしました。でもまぁ彼自身は、取材とは関係なくプライベートなことなのですが、今年の8月29日にこのディレクターは自殺をしました。
 まぁ本当に理由は取材の圧力ではなくて、プライベートなことで、それは私はとても聞いていたのですが、しかし、このような原発事故の取材をして、そのニュースに関して環境省などからクレームがホームページにホームページに発表されるなどということは初めてのことだと。
 この取材もそうですが、原発事故の汚染水の報道や、手抜き除染の報道など、彼は原発事故の報道に関しtて、とても突っ込んだ取材をしてたんですけれども、
「どんどん局から孤立する。そして、オンエアの報道する直前までいろいろな偉い人、スポンサーたちが自分のところにきて、『話がしたい』『そのニュースを発表するな』ということを言われる」
ということを聞いておりました。
 これは報道ステーション、自殺した彼の話なのですが、私自身に関しての国からの圧力。
 これはですね、去年の秋、10月11月に、突然なにかファンのような、追っかけのような人たちが付いたんですね。この人ですけれども。
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 彼は、聞きますと、公安調査庁という内閣府の調査組織の人間とのことでした。彼自身にインタビューをしたわけではないんですけれどもね、その組織のOBの方が私たちに情報提供してくださったんですが。
 日本は昨年から原発事故の後、原子力を再稼働する、再び使っていくということが本格的に去年の夏に決まりました。で、秋から原発事故に対して厳しい取材をしている人間や、邪魔になるニューカマーを徹底的に調査するということになり、その公安調査庁という組織の調べるリストが一掃されたそうです。そこのリストに、私の名前が書いてあったということをOBの方に聞きました。
 私は日本では大体漢字を使う名前が多いんですけれども、私は芸名で記事を書いているので、「おしどりマコ」でひらがなとカタカナなんですね。なので、
「リストの中でとても目立っていたよ」
という電話を戴きました。
 3週間ほどとても徹底的な尾行がついていまして、どこに行っても誰と話をしていても、このようにすごく至近距離で話を聞いている。誰と何を話しているかっていうのですね。
 私は盗撮が趣味なので、このようにいろんな人たちの写真をコレクションしていったんですけれども。
 例えば、福島県や隣の茨城県、これは北茨城市役所、これは北茨城市の市長なんですけれども、の取材をしているときにも、ちょっと立たされているような感じですが、カバン斜め掛けの彼も、付いている人間なんですね。
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 その・・・ちょっと私は迷惑だなと思いましたのは、この尾行される方々が、例えば福島県のお母様方、と話をして取材をしていると、帰りにこの尾行する人たちが、そのママたちの車のナンバーと顔写真を撮って去っていくんですね。そうすると、やはり取材をして話をしている方々は、
「何をされるんだろうか。このように車のナンバーと顔写真を撮られて大丈夫なんだろうか」
ととても怖がってしまいます。なので、なかなか取材がしにくかったりもするんですけれども。
 このように、このOBの方に伺いますと、
「顔が見える形での尾行は『脅し・威嚇』。こういう尾行が一人ついたら、周りに10人くらい裏にいますよ」
ということを教わったんですけれども、まるでゴキブリのような話だなと思いながら。
 まぁでもこれが取材に対する国からの圧力の一つではないかと思います。
 
 やはり一番これから問題になるものとして、『特定秘密保護法』というのがあります。私自身は、2011年から取材をして、とてもいろんな方々からお力を借りました。その中には、本当に国の方々、保安院や原子力安全委員会や、農水省や環境省や、被災者生活支援チームの医療官の方々など、国の方々からの協力もとてもたくさんいただいていたんですね、実は。
 といいますのは、すごく嬉しいことなんですけれども、私がとても勉強家だと。他の記者の方々に比べて、とても丁寧に勉強して取材をして伝えようとして、そしてスポンサーの影響を受けていないので、意外と国の広報の方々は、私に連絡をして情報提供して、記事を書いてくれということが多かったんですね。
 今年ももちろんそういうことがありました。いろんな農水省や水産省の方々が情報提供していただくんですが、でもやはり今年の12月から特定秘密保護法が施行されると、こういうことはやはり違法になるので、できなくなるのではないかと、とても怖がって、
「もうこれで最後」
とおっしゃる方々も多かったです。
 原発事故に関して、経産省の方々も意外と仲良くしてくださるんですけれども、先ほどの方のプレゼンの中にも出ていたのですが、東京大学の小佐古先生。小佐古先生もとても力を貸していただきました。経産省の方々もそうですけれども、原子力推進側の方々が、
「原子力は日本にとって必要だけれども、それでも福島第一原発事故の後の対応がおかしい」
とおっしゃる方々も多いんですね。原子力は要るけど、現在の日本はおかしい。そういう方々がなかなか意外と原発推進か脱原発のどちらかみたいな形になってしまうので、情報も発信しにくく、ものも言いにくいということで、たくさん情報提供いただいたのですが、今後・・・この法律が施行されることによって、それは本当に少なくなるということを実際に聞いています。

 そうですね、3点目。
 記者の方々の知識が乏しい。
 これは本当に言うのがおこがましいんですけれども、これは2011年9月10日の東京電力の会見場の写真です。
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現在はどうかといいますと、同じ日付の写真があったので。
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このような形で、2014年ですね。とても取材する記者の数が減っています。
 その上、大手メディアの記者の方々は、定期的に入れ替わるんですね。短いところで3か月、半年くらいで新しい方々が来られます。ということはどういうことかと申しますと、とても本当に・・・引き継ぎとかもあまりされない感じで、初心者の方が取材しに来られるんですね。
 私がびっくりしましたのは、去年2013年の夏に新しく来られた記者さんが、東京電力の記者会見で質問されたのが、通信社の方だったんですけれども、
「ホールボディカウンタで内部被曝は測定できるんですか?」
という質問を去年の夏、原発事故から2年経ったときにされました。私はそれはとても驚いて、そのようなことを2011年の4月、5月に既に出尽くして、汚染地域の方々は常識のことを、改めて通信社の方が2年後に質問してしまうということ。
10 記者会見で質問されることは少なく、このように記者会見が終わった後ぶらさがりという形で、広報の方にいろいろ質問するんですけれども、その時の質問は、新しい方は、ちょっとおこがましいんですけれども、とてもレベルが低かったりするんですね。2014年になってからでも、記者会見に初めて参加される方は、
「格納容器と圧力容器はどちらが内側にあるんですか?」
とか、そういうような質問を本当にされます。
 朝日新聞の吉田調書問題というのがありまして、朝日新聞の原発事故担当の記者の方々も一掃されました。全く今まで取材しに来られなかった方が今来られてるんですけれども、そうするとどうなるか。
 もう全てのことに関して、東京電力から記者会見が終わった後1時間以上毎回レクチャーを受けるという形になっているんですね。さすがに面白かったんですけど、東京電力ももう面倒臭くなったのか
「全部ホームページにホームページに載っています」
と回答したんですけど、朝日の方は、
「どこのホームページですか?」
「汚染水対策委員会のホームページに経緯は全部載ってますから」
といいますと、朝日新聞の方は、
「汚染水対策委員会って何ですか?」
という話になり、東京電力が
「原子力規制庁と経産省というものがありまして・・・」
という説明をされておりまして、本当にフレッシュな形で取材をするというのは、新しい視点ということで重要なことなんですけれども、ある程度予習であったり予備知識というのを取材に関して必要じゃなかろうかというのを毎年、記者さんが変わる度に改めて思っています。

 そうですね。
 このようなことが報道のゆがみとして感じたことなんですけれども、あと発信される一次情報というのも歪んでいるのではなかろうかと思います。
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 会見で発表される情報は、事実と異なっていたり事実が隠されていたり。そういうようなことがあるんですね。
13 これは東京電力の社員の方で、2012年に福島第一原発で医療室で看護師として働いていた方、ソメモリさんとおっしゃいます。彼に2013年東京電力をやめた時にインタビューをとりました。ソメモリさん、彼が言うには、東京電力が発表する福島第一原発で亡くなった方というのは、仕事時間内、敷地内で亡くなった方のみなんですね。仕事時間以外、敷地外で亡くなった方は発表されない。
 今作業員の方々は月曜日から金曜日まで毎日働いていて、そして福島第一原発の近くの寮であったりアパートであったりに暮らしていて。という形で働いているんですけれども、朝、その寮の部屋から起きてこないなと思ったら、もう亡くなっていたり。そして月曜日から金曜日まで働いて、土日に実家に戻っていて、月曜日に来ないなと思ったら、週末のうちに亡くなっていたり。
 そのような方は時間外、敷地外で亡くなったということで、一切発表されません。しかし、現在下請け会社の方々も、原発事故の収束作業というシビアな状況ですので、不安がって、一応「こういうことがありました」と報告があるんですね。
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 医療室の看護師である彼のところにまで、「今朝一名亡くなっていました」と報告があるんですけれども、彼が上司に報告を上げた段階で、
「まぁそのお亡くなりになった方は、もともと持病があったんだろう」
ということにされてしまいます。なので、全くカウントされていないのではないかと。
 彼は、ローテーションで週に何回か福島第一原発の医療室で働いていて、同じような立場が4人居たということでした。彼は
「2012年に福島第一原発の医療室で働いている間に、そのような報告を10人前後受けた」
と言っていました。なので、
「同じ立場の看護師が同じような人数報告を受けていたとしたら、外に発表されずに亡くなった作業員の方々は、一体何人になるんだろうか?」
ととても心配していました。

 そうですね。あの・・・、今年2014年9月も発表の仕方は同じようになっていて、9月に例えば福島第一原発からドクターヘリで運ばれた方がおられたんですけれども、その方については、東京電力は、
「作業と病気は一切関係がない」
ということで詳細な情報を一切発表しませんでした。
「福島第一原発の作業もそのドクターヘリで運ばれた方は、6か月で短かった、だから関係ないんだ」
ということだったんですけれども、その後私は取材しまして、そのドクターヘリで運ばれた方は、実は2011年、12年も福島第一原発で働いていて、そのほか楢葉町などで除染作業もしていてということで、既に80ミリシーベルト被曝されていた方で。で、ドクターヘリで運ばれた理由は、心臓の大動脈瘤ということでした。
 今年8月にも1名亡くなっておられるのですが、その方は朝の打ち合わせの前ということで、仕事の勤務時間外ということで同じように詳細は発表されませんでした。しかし、その方をまた取材しますと、その方の無くなった理由は、心臓の大動脈解離でした。
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 このように東京電力からは発表されないのですが、今作業員の方々は循環器系の心臓の疾患でたくさん亡くなったり病院に運ばれたりしています。
 これは病名を発表せず被曝線量も発表せずなので、東京電力は
「仕事と疾患は一切関係ない」
と言って何も発表しないのですが、被曝と循環器に何らかの相関があるのではないかということは、既にいろいろな論文でも発表されておりますので、このような形で何も情報が出てこないというのは、隠ぺいではないかと思っています。

 このようなことも会見で発表されない以上、記者が現場の人たちに直接パイプをつながないと出てこないという情報がたくさんあります。

 これ情報の自主規制といいますか、国からの規制にも近いんですけれども、ちょっと見にくいですね。これは2011年の5月16日に出された厚労省と文科省から全国の学会、研究者や大学機関などに発表された文言なんですね。
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 この・・・主旨は、
「被災地で実施される調査・研究について、被災地における被災者を対象とした健康調査・研究を実施する場合は、必要以上に詳細な調査研究が行われることの無いように配慮すること」
という文書が出ておりました。これを知ったのは、福島県の飯館村というとても汚染された地域があるんですけれども、その方々と
「一刻も早く飯館村の子供たちにホールボディカウンタを受けさせてほしい」
と2011年の3月から動いていたんですね。皆さんご存知のように、ヨウ素が半減期が8日でとても速いので、恐らくヨウ素でとても被曝した子供たちは、3月15日に飯館村の線量はとても上がったので、とにかく数カ月以内に数十人でいいからホールボディカウンタを受けさせてほしいと走りまわっていたんですね。行政や大学や、放医研にも行きました。
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 東日本のホールボディカウンタが難しいのであれば、九州や北海道の研究機関に連絡して、交通費も自分で出すので、子供たちのホールボディカウンタを少しでも早い時期にとってもらえないかとお願いしに回ったのですが、現場の研究者の方が、
「本当は一刻も早く住民の子供たちのホールボディをとりたいんだけれども、実はできない」
といって示されたのが、この文書でした。現場の方々も
「これがあるので、ホールボディカウンタととりたいが、詳細な調査・研究ができなくなっている」
というふうに連絡されました。
 同じように飯館村に割と初期に入られたドクター、お医者さんがおられたんですけれども、この文書が出てから・・・「調査ができなくなった、いろいろな許可がいる」ということで無理になったということで、汚染した村から出ていかれた方もおられました。
 で、これに関して私は文科省に取材しにいったんですけれども、
「何もこれは規制をする性質の文書ではない。『配慮すること』といっているだけなので、調査をするなとは言っていない。勝手に研究者の人たちが気を聞かせてやめただけだ」
という回答でした。

 このように事故後『配慮すること』というような文書はたくさん出ておりまして、一例挙げますと、これは農水省から全国のスーパーや商店街など小売りチェーンに出された文言の資料なんですね。
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これは、
「産地名の掲示等について『ご配慮をお願いします』」
という文書が出ておりました。
これは私、取材の中で、スーパーマーケットの野菜の表示がある日『○○県産』から『国産』という表示に変わった時があったんですね。なぜだろうということで取材をしたときに、
「このような通知が出たので、県産表示から国産表示に切り替えた」
ということをスーパーマーケットの担当の方から聞きました。
 すごいおもしろいんですけれども、『西日本産』と『国産』とか、スーパーマーケットによっていろいろ・・・苦しんだんだろうなみたいな表示の仕方があって、興味深かったですけれども、これも同じように『ご配慮』という形で何も国側からは指示はしていない。でもしかしこの指示を受けた側は、いろいろ自主規制をしていってしまうというような資料でした。
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 そうですね、小さくて見にくいんですけれども、2011年の3月4月5月に、東日本にはとても汚染された野菜が流通していました。もともと測定機械を持っている大学の研究機関や民間の研究所は、興味本位でほうれんそうやキャベツなど測ってるんですね。しかし、でもそのデータは外には一切出てきません。どれだけ汚染されたものを私たちが食べていたかということを突きつけてしまうのは、いち研究機関、いち研究者では無理だということで
「とても発表できない」
と言われてしまいました。
 唯一発表しているのが、グリーンピースのデータですけれども、これは福島だけで、東京や神奈川や茨城や東日本でどのように汚染されていたかという情報ではないんですね。でもまぁこれだけでも少し見にくいんですけれども、福島県の直売所で、数千ベクレル、数万ベクレル/㎏のホウレンソウなどが売られていたということがここには書いています。
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 民間の研究所などにいろいろなメーカーが、自分のところの商品を測定して、本当に全ての商品をチェックして、子供用のものなど、チェックして販売していたんですけれども、残念ながらそのデータも外には出てこないんですね。なんでかというと、企業が放射性物質を自分のところの商品を測定するということは、国が大丈夫だと言っているのに、しかしそれを信用せず測定するということは、国策に反するということなので、どれだけお金を使って測っていて大丈夫だったとしても、その情報は外には出さないということを、測っている企業や民間の研究所から聞きました。

 意図がある情報を拡散
 これが・・・一番はっきりと感じたのが、2012年に東京大学でありました、OECDLNEA、世界経済協力機構原子力機関のシンポジウムの取材をした時ですね。
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 これが3日間ありまして、取材しに来ていたのが読売新聞とおしどりだけという、とても少なかったんですけれども。読売が1日目の午前中で帰って、3日取材したのは私たちだけという形で。
 発表されていたICRPダイアログセミナーなどいろんなことが発表されていたんですが、私が一番ショックを受けたのがこのことでした。
 福島の住民の方々の話を聞いて、
『福島の方々は新しい価値観に出会えた。それは故郷を愛する価値観だ。福島の方々は自分たちの手で除染して住み続けたいという選択をした』
ということがこのシンポジウムでしきりに発表されるんですね。
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 それで・・・、この結論を外に出すのか?これは私が取材した内容とだいぶ違うな?とだいぶ思っていたんですけれども。
 私たちがプレス席で取材をしておりますと、研究者の方が一人近づいてきて、
「そういう記事を書くの?」
ということを話しかけてきたんですね。
「このシンポジウムの目的はこうだから、ちゃんとそれを踏まえて書いてね」
と言われたんですが、それが、
「このシンポジウムの目的は、世界に原発を推進していくために、どうやって住民にリスクを説明していくか。もうこの時点でアフリカやアジアに原発を作っていくことは決まっているので、次に原発事故が起こった時にどうするか。そして、福島の原発事故のリスクを『住民が受け入れて、除染して住む』それを発信することが、世界に、アフリカやアジアに原発を作るためにすごく重要なことなんだ。それを踏まえて記事を書くように」
と出席した日本の研究者の方から言われました。
 私は
「わかりました。そのとおりに書きます」
と言って全文書くと、すぐに
「なんで書くんだ?」
って文句きたんですけれども、全部音源とっていたので、
「あれ?おっしゃってませんでした?」
というやりとりをしたら、もう何も言われなくなりました。
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 そこで、福島エートスというあんどうりょうこさんのスライドも紹介されておられました。ここで感じたのは、OECDLEAのシンポジウムで発表される住民の方々の意見というのが、本当に一種類のものだけだったという違和感だったんですね。
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 福島のエートスの方々だけでなく、汚染地域あちこちにはいろんな団体があります。
これは「負げねど飯館」という飯舘村の団体ですね。子供たちにとにかく早くホールボディカウンタを受けさせたいと主張していた方々の団体。
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これはいわき市で、学校給食で福島県産のものを率先して使おうというのは、倫理的におかしくないか?というようなことを署名を集めて活動しておられる団体の方々ですね。
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これはこの間の日曜日のイベントだったんですけれども、様々な原発事故に関する裁判や団体があります。その裁判の方々が一堂に会して情報共有していこうということが新しく始まったんですね。それに参加しておられた原告団の方々です。
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 たくさん原発事故に関して住民の方々の意見はあるんですけれども、世界に出ていく、発表される意見はなぜか一種類にしぼられてしまうというのは、発信される情報のゆがみではないかと思います。

 さて、この情報のゆがみ、報道のゆがみは正せるんでしょうか?
 原発事故の取材ビギナーの私が、一つ提案したいと思います。
 取材をして感じたことは、私たちは本当に『ナメられている』ということなんですよね。実際に私たちはあまり賢くないと思うんですよ。私自身もとても不勉強なので。
 これは、2012年に週刊文春という雑誌で、私が東京電力の作業員の方が亡くなったことについて記事を書いたんですね。『原発作業員はなぜ死んだか』まぁこれも本当に理不尽で歪んだ内情があったんですけれども、この記事を書いて校了という、これくらいで完成ですよとなった日に、浜崎あゆみさんが・・・なんか離婚されたんですね。それで電話が掛かってきて、
「申し訳ないけれども、作業員が亡くなった記事は減らしてくれ」
と言われたんですね。
 それで、「そんな作業員が亡くなったことより浜崎あゆみさんの離婚のほうが大切なのか?」というやりとりをしたんですけれども、
「浜崎あゆみさんの離婚を載せないと雑誌の部数にも関わるので、悪いけれども削れ」
と言われました。
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 これは本当に読者の問題といいますか、浜崎あゆみの離婚より作業員が亡くなった記事を読ませろというふうになれば良かったんですけれども、やっぱりそういうわけにもいかず、半分くらいに削られてしまったんですね。
 なので、情報の受け手として、メディアを淘汰する力というのは持ってると思います。私たちがNHKや報道ステーションやいろいろな新聞やメディアに、
「きちんとした情報を載せてくれ、この記事が読みたいんだ、この記事は要らないんだ」
ということをきちんとものを言っていくということは、メディアを淘汰する力になるのではないかと思います。
 
 私が去年ショックだったことの一つに、安倍総理がブエノスアイレスでのIOC総会の時に、
「汚染水は完璧にブロックしています。コントロールしています」
とおっしゃったのですけど、これ、安倍さんが一応ブロックしてるんじゃないかなと考えたエリアなんですね。港湾と呼ばれるこのエリアが0.3平方kmですけど。
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 これはショックでした。
 なぜなら、記者会見では、もう汚染水は毎日海に流れていますというようなことは発表していたので、それは全然・・・、安倍さんがウソをおっしゃったということより、『そのウソが私たち国民に通ると思われていたこと』のほうがショックだったんですね。
 私たちが、「いやいや、それはおかしいでしょ、ウソでしょ」というふうにならないと思われていたというのがショックで。
 ちなみにブロックしているとおっしゃった次の日の東京電力の会見はとても荒れて、記者の方々がそうツッコミで、
「汚染水は本当にブロックしているんですか?そんなことないでしょ?」
と質問したんですけれども、東京電力もさすがにブロックしてるとはいえず、
「東京電力といたしましても、安倍総理のご発言の趣旨を国に確認いたしました」
って言ったんですね。東京電力もびっくりしてたんですよ。あの発言は。「なんであんなこと言ったんだ」と、国に確認したということなので。

 なので、本当にこれはもう私たちが情報に疎かったので、このような・・・おかしな発言を許してしまったということで、とても悔しかったんです。

 私は報道とか情報のいろいろ歪んでるなと思ったんですけれども、でも案外私はチャンスだと思っていて、原発事故に限らず、いろいろな問題のゆがみ、報道のゆがみ、情報のゆがみはあるんですけれども、全部『私たち』が、情報の受け手がメディアを淘汰して、情報の受け手のレベルを上げることによって、メディアは自然に変わらざるを得ないと思うんですよね。私が本当に今まで芸人として仕事をしてきて、2011年の事故の後から取材をして勉強を始めたように、たくさんの方々が、
「あ、不勉強だったな」
と思って動き出された方々もいます。なので、とてもチャンスだと思っています。

 これは、2013年の放医研の国際シンポジウムでアメリカの研究者の方が、線量再構築への提案という中で発表されていて、とても印象的だった言葉なんですけれども、
被ばく者は事実を知る権利がある。被ばく者はどんなに少ない線量でも、自分がどれだけ被ばくしたか知る権利がある
という発表を去年されていました。
 汚染地域の方々に限らず、東日本の方々は、私は被曝したと思っています。私自身、2011年に詳細なホールボディカウンタを受けた時に、その方から
「東京の人間にしては、あまり被曝してない」
という評価をしていただきました。
 なので、もう東京の方々も被曝してますし、それはフランスの研究所のデータでも出ています。実は海外のデータはいろいろ揃っていて、原発事故の後、海外に外国人の方々はすぐ自分の国に戻られたんですよね。それぞれの国ですぐにホールボディカウンタをとって、行動記録をとっていると。その情報提供をするということも、去年の放医研のシンポジウムで発表されています。しかし、まだ日本にはそのデータは入っていません。
 それぞれの国で発表されたデータを見ると、例えばフランスは280人の方が3週間以内に日本からフランスに戻っているんですけれども、その35%の方が被曝していたというデータをもう発表しています。
 先ほど申しましたとおり、原発事故の直接の被曝でなくても、とても汚染されていた食品が流通していたので、それによる内部被曝もかなりしていると思います。
 なので、本当に・・・この原発事故に関することは、ただ一読者としてではなく、私たちは被曝者として事実を知る権利があるのではないかと思います。
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 そのために私たちがメディアを淘汰しつつ、そして、自分たちの情報のレベルを上げていくということは、とても必要なことではないかと思います。

 長くなりましたが、最後まで聞いていただいてありがとうございました。