20120726 たね蒔きジャーナル 京都大学原子炉実験所助教 小出裕章
http://www.youtube.com/watch?v=aQkuYARAcxw&feature=plcp

【以下、お時間の無い方のために内容を起こしています。ご参考まで】

(千葉氏)今日は毎日新聞論説員の近藤しんじさんと一緒に伺います。
 さて小出さん、先週、先々週とこのコーナーで青森県六ケ所村の再処理工場が普通に稼働しただけでも事故なんかおこさなくても、すごい量の放射性物質を環境に出してしまうということについてお伺いしましたけれども、これについて更にリスナーの方からこういう質問が来ております。
 岩手県奥州市にお住まいの方です。
『六ケ所村処理場で年間33京ベクレルという途方もない量の放射能を放出しているという話で驚いたんですが、これは去年の福島原発事故で問題になったベントによる放射性物質の大気中への放出とは違うんでしょうか?どこからどんな形で放射性物質を出してしまうんですか?』
という質問なんですが。
(小出氏)ベントとは全く関係ありません。33京ベクレルというその数字は、クリプトン85という放射性物質についての値です。そのクリプトン85というのは、私たちが希ガスと呼ぶ1群の元素軍に属していまして、完全なガス体なのです。
 原子力発電所に存在しているときには、燃料棒という金属のパイプの中に閉じ込められた状態でクリプトン85も存在しています。ですから、原子力発電所から外に出てくるということは、基本的には無いのです。
 ただ、金属は時々割れたり穴が空いたりしていますので、原子力発電所でもわずかではあるけど出てきてしまう、とそういうものです。
 しかし、再処理工場は、先週も聞いていただきましたが、ウランが燃えてできた核分裂生成物、そしてプルトニウムというものが燃え残りのウランと一緒にペレットという形で存在しているのですが、その中からプルトニウムだけを分離するという作業であるために、ペレットを金属の被覆管というパイプの中からとにかく取り出さなければいけないのです。 
 ですから、一番初めに被覆管という金属のパイプをブチブチにちょん切ってしまうんですね。そうすると、クリプトン85というのは完全なガス体ですから、もうその段階で外に吹き出してきてしまうということになります。
 そして、ガス体ですので、基本的には閉じ込めることができませんので、そのまま外に捨ててしまうということをやっています。
(千葉氏)そのじゃあ、再処理ということをする最初の過程で、もう環境に出てきてしまうわけですか?
(小出氏)そうです。もう出してしまうことを予定して出しているのです。
(千葉氏)でも、小出さん、先週「取り去ることができる方法がある」というふうにおっしゃってましたよね?
(小出氏)そうです。被覆管をちょん切った段階でクリプトンが外に出てきてしまうのですが、それを零下153℃までその空気を冷やすことができれば、クリプトンは液体になりますので、その段階で捕まえることができます。
 ただし、それをやるためにはお金が掛かるということで六ヶ所再処理工場は、クリプトンは全量外に捨てるということにしてしまいました。
(千葉氏)うーん・・・。あの、イギリスだとかフランスだとか、外国にも再処理工場があると聞くんですけど、こういったところではどんなふうにしてるんですか?
(小出氏)クリプトン85に関しては、基本的にすべて同じです。どこの再処理工場でも全て環境に出してしまうということになっていまして、地球上の大気はもう既にクリプトン85で全世界が汚されてしまっています。
(千葉氏)あの、クリプトン85に限らずですね、イギリスや例えばフランスの再処理工場でもいろんな放射性物質が出ていると思うんですけれども、稼働してるんですものね?例えばその工場の周りでは、何か変化が起きていたりとかはしないんですか?
(小出氏)例えば、日本の原子力発電所の使用済燃料というのは、これまで日本の国内に再処理工場が無かったがために、イギリスのウィンズケール、最近はセラフィールドと呼ばれていますが、その再処理工場と、フランスのラ・アーグという再処理工場に送っていました。再処理をしてもらってきたのです。
 例えばイギリスのウィンズケール再処理工場は、これまでの運転の間に広島原爆400発分に相当するセシウム137をアイリッシュ海という海に流しました。平常運転・・・です。事故でもなんでもなくて。
(千葉氏)え?普通に運転してるだけで、それだけのセシウムを海に流してしまってると?
(小出氏)そうです。福島第一原子力発電所の事故で、大気中に漏れてきたセシウム137は、日本政府によると168発分だと言ってるのですが、私は多分それより2倍か3倍多い=つまり400発分くらいはあると思っています。
 でも、それと同じだけのセシウム137をイギリスのウィンズケール再処理工場は『平常運転として』アイリッシュ海に流してきました。
(千葉氏)事故ではなくて、普通に運転してるだけでそれだけのものを流してるということですか?
(小出氏)そうです。
(千葉氏)はぁ・・・。
(近藤論説員)小出さん、さきほどクリプトン85を除去するにはマイナス153℃まで冷やすという話ですが、これコストだけの問題なんですか?技術的にはもう確立されてるんですか?
(小出氏)はい。その技術は日本の政府が確か160億円だったと私は思うのですが、それだけのお金を投入して技術開発を進めてきました。そして、『できる』ということまで判ったのです。
 しかし、それをやるのにはまずお金がかかるし、仮にクリプトン85を液体として捕まえたとしても、いつまでもずーっと閉じ込めておくことにまた、困難が伴うということで、
「そんなことなら初めから出してしまえ」
ということになってしまいました。
(千葉氏)「出してしまえ」ということなんですけども、このクリプトン85というのは、生物の体には一体どういった形で影響を及ぼす恐れがあるんですか?
(小出氏)クリプトン85は完全なガス体ですので、例えば私が呼吸で肺に取り込んだとしても、肺の組織と何の反応もしないで、また呼吸で外に出てしまうという性質のものなのです。ですから、身体に蓄積することもありません。そして極々弱いβ線しかだしませんので、被曝という意味ではあまり重要ではないとこれまで考えられてきました。
 しかし、全地球の大気がクリプトンで汚されてしまっていますので、これから全地球70億人という人々が、そのクリプトン85に被曝をしていってしまうということを考えると、無視していいものとは私は思いません。
(千葉氏)うーん。再処理工場からクリプトン以外にもいろいろな放射性物質が出ると思うんですけども、その再処理工場の周りの人の健康に何か影響が出たりとかはしてないんですか?イギリスやフランスの場合・・・?
(小出氏)例えば先ほど聞いていただいたウィンズケール再処理工場の周辺では、子供の白血病が増えているということが、統計的に明らかになっています。
 では、その統計的に明らかになった白血病が本当に再処理工場からの放射能の影響なのかどうなのかということで、未だに論争が続いています。
(千葉氏)でも、そういう形で、例えば子供の白血病が増えてるという事実はあるわけですよね?
(小出氏)そうです。
(千葉氏)例えばじゃあ、そこに対して、イギリスやフランスという国は、何かしら対策をとったりとか、「ちょっと原子力の利用を考え直そう」みたいな動きは無いんですかね?
(小出氏)はい。アイリッシュ海というのは、イギリスのグレートブリテン島とアイルランド島との間にある内海なんですね。日本でいえば日本海のような海なのですが、そこに膨大な放射性物質を流してきたがために、アイリッシュ海で獲れる海産物は全てもう汚れているのです。そのため、アイルランド政府や議会は、もう毎年のようにウィンズケール再処理工場の停止を求めてきています。
 しかし、イギリスという国は、再処理をするということでお金儲けをしてきたと、そういう国ですので、なかなか停止に踏み込まないまま今日になってしまいました。
(千葉氏)うーん・・・。なんとも言えん状態なんですが、もう一つだけすいません。
 再処理工場なんですけれども、再処理するための使用済核燃料がたくさん集まっていると思うんですけども、もし大地震が起きた場合にこれを冷やすことができなくなって、大事故が起きる可能性があったりとかするんですか?
(小出氏)もちろんあるのです。使用済燃料といえども、放射性物質である限りは発熱をしていますので、いついかなる時も冷やしておかなければいけないということで、プールに沈めてあるわけですし、プールは常に循環しながら冷却をしなければいけない、とそういうものなのです。
 ですから、例えば電源が無くなって冷却できなくなってしまいますと、プールの水の温度がどんどん上がってきてしまうということになります。現在の東京電力福島第一原子力発電所の4号機の使用済燃料プールでも同じようなことが時々起きて問題になるわけですけど、再処理工場というのは、遥かに大量の使用済燃料をプールに入れてありますので、もし、事故が起きたらば大変なことになります。
(千葉氏)うーん・・・。
(近藤論説員)小出さん、この原発に関していろんな規制があると思うんですけども、再処理工場に対しても、これは基本的に原発と同じような規制があるということなんですか?
(小出氏)基本的には同じなのですが、特殊事情がいくつもあります。
 例えば、原子力施設の場合には、周辺に放射性物質を捨てる、例えば気体で捨てたり液体で捨てるときには、濃度規制を受けるのが日本の法律で決まっています。
 でも、原子力発電所の場合には、例えば液体の場合には、いわゆる原子炉を冷やすために大量の海水を敷地に引き込んで、またそれを海へ流すということをやっているのですね。例えば100万キロワットという原子力発電所でいえば、1秒間に70トンの海水を引き込んで、その温度を7度上げてそれをまた海へ戻すということをやってるわけで、原子力発電所ができると、そこに巨大な川ができると、そういう施設なのです。
 ですから、仮に濃度規制があったとしても、どんな放射性物質でもその大河に流してしまえば捨てることができると、そういうものでした。
 しかし、再処理工場の場合には、そんな大河はありませんので、放射能を薄めて捨てるということが再処理工場の場合にはできないことになりました。そこでどうしたかというと、再処理工場に関しては濃度規制をはずしてしまうということにしました。
(近藤論説員)あ、そうなんですか。
(小出氏)はい。例えばトリチウムという放射性物質があるのですが、そのトリチウムを原子力発電所が受けている法律に則って捨てようとすると、毎日100万トンの水がいると、そういうことになってしまいました。
 そのため濃度規制を外して、海へ長い放水菅を引いてですね、沖合何キロというところで海底から放出すると。そうすると
『「海は広いぜ、大きいぜ」ということで薄まってしまうからいいんだよ』
という、そういう規制の仕方にしました。
(千葉氏)そういう問題じゃないと思うんですけどもね・・・。
(小出氏)はい。
(千葉氏)判りました。小出先生、どうもありがとうございました。
(小出氏)ありがとうございました。
【以上】

クリプトン85についての解説【原子力資料情報室】
⇒ http://cnic.jp/modules/radioactivity/index.php/7.html

失礼します。
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