2012年05月31日【木】京都大学原子炉実験所 小出裕章・たね蒔きジャーナル


【以下、お時間の無い方のために内容を起こしています。ご参考まで】

(千葉氏)今日は毎日新聞論説員の近藤しんじさんと一緒にお伺いします。
 まず、小出さん、関西広域連合が大飯原発の限定稼働を事実上容認する声明を出しまして、夏だけ原発を動かすというようなことが浮上してきているんですが、ファックスで質問が来てまして、これは以前にもお伺いした質問なんですが改めてこのタイミングでも皆さんの関心が高いのでお伺いをさせていただこうと思います。
 豊中の方からの質問です。
『大阪市の橋下市長は原発を2,3か月限定で動かして止めることを提案していますが、動かすにしても止めるにしても、そんなに簡単なものなんでしょうか?』
ということでして・・・
(小出氏)原子力発電所を動かすためには何日、或いは何週間かの日数が必要になります。それで動かしてしまうと止めるのはまたなるべくならやりたくないということで、これまでは13か月間以内でまた定期検査に入れと言われていたわけで、なるべく長く運転したいというのが電力会社のやり方でした。
 でも、今は「とにかく夏の電力ピークが足りないから困る」と国も電力会社も言ってるわけですから、3か月なら3か月運転して止めるということは、もちろんできます。
(千葉氏)しかしながらですね、オートバイのエンジンを急にふかしたし冷やしたりするのと同じで、原発の機械については、動かしたり止めたりということを繰り返しているとどんな影響が出てくるんですかね?
(小出氏)いけないのです。ですから、燃料棒にも負担がかかりますし、原子炉圧力容器という鋼鉄の圧力釜にも負担がかかりますので、なるべく温度の変化を避けたいということで、一度動かし始めたらば・・・そのまま運転をし続けて13か月やって止めたいということだったわけですけれども、もうこれから原子力発電所を動かさなくてもいいかもしれないわけですから、少なくとも今度、この夏を乗り越えるということだけでいうなら、3か月なら3か月で止めるという選択はありうると思います。
(千葉氏)うーん。まぁ関西広域連合としては、公式に夏だけというような形で言ってるということではないようなんですけれども、もしかすると、その・・・長く続いてしまうということも考えられるということでしょうかね?
(小出氏)そうですね。私はもう大変不本意です。ずーっとこの番組でも聞いていただきましたけれども、原子力発電所をすべて停止したとしても日本の電力供給に何の支障もないのです。関西電力はたまたま原子力に過大な期待を持って・・・というか原子力に儲けを期待して原子力の比率が50%にもなってしまいましたけれども、ほかの電力会社はもちろんそうではないわけですし、日本全国電力の送電網で結ばれていますので、仮に関西電力個別で電力が不足するとしても、ちゃんと融通してもらえるような体制を取るなら、何にも困らないというだけ、電源施設はあるのです。そのことを国もきちっと言わないし、関西電力も言わないし、広域連合もなんで橋下さんがそこまで言わないのかな?と私は大変不思議です。
(近藤論説員)小出さん、あの、原発のコスト面でいいますとね、火力なんかに比べてコストが安いんだという言い方がよくされるんですけれども、こういった2,3か月限定で使うというようなことがもし実現しましたら、そのコスト面では何か影響あるんでしょうか?
(小出氏)コストはもともと高かった・・・のです。これまでも国や電力会社は原子力発電が安いと言ってきましたけれども、それはまぁ、彼らの都合のいい仮定に仮定を積み重ねて引き出してきたから安いと言ってきただけなのであって、2年ほど前だったと思いますが、立命館大学の大島堅一さんという人が電力会社の有価証券報告書、つまり実際の経営データで計算してみたら、原子力発電が一番高かったということは既に判ってしまっているのです。その上で、今度のような事故が起きれば、一体もう原子力発電の電気料金ってどれだけ高くなるか、もう判らないくらいのことになっているのです。
 ですから、本当に経営感覚を持っている経営者であれば、やはり原子力から撤退しなければいけないという判断になるはずだと思うのですが、それでももう、これまで作ってしまった発電所をすぐに捨てたらば損してしまうという、ただそれだけにしがみついているように私には見えます。
(千葉氏)更に気になるところではこんなニュースも入ってきてるんですが、浜岡原発の5号機では去年5月に政府に要請を受けた運転停止の作業中に原子炉を冷やすための細管という管が壊れて、貯水槽に海水が流れ込んだということで、そこに少なくとも11か所の穴が空いたんだそうです。やっぱり原発というのは、動かしたり止めたりという作業をするときも、かなり慎重にやらないと、こういったようなことが起きる可能性があるんですかね?
(小出氏)もちろんそうです。どんな機械でもそうですけれども、ずっと定常状態で動かしているというのが一番いいわけであって、動かしたり止めたりするときに一番の危険がきます。例えば皆さん、飛行機を考えてください。飛行機の事故というのは離陸する時と着陸するときに起きるのです。急激に変化が起きるときに起きるのであって、だからこそ飛行機の時にはシートベルトをしなさいとかいう警告が出るのです。どんな機械でも同じであって、原子力発電所も起動する時、或いは停止するときに危険がくるので、なるべく動かし始めたらば定常運転で運転したいということで今日まで来ました。
(千葉氏)うーん。やっぱり・・・システムにもかなり負担がかかるということなんですね。
(小出氏)もちろんどんな機械でもそうなのです。
(千葉氏)あと、このニュースでもう一点気になったところが、この貯水槽というところに海水が流れ込んで、そこに穴が空いたんですけれども、この槽は厚さ4㎜の鋼鉄で作られているということでして、少し薄いような印象があるんですけれども・・・
(小出氏)はい、それは原子力発電所というのは巨大な構造物でして、今おっしゃってるところは1次系と2次系ですかね、本来は原子炉の冷却とは関係ないところの構造物なのです。でも、それでもトラブルが起きれば困るということで、穴が空くことはもちろんあってはいけないのですけれども、原子炉を本来冷やすというその構造物とは違うところなので、比較的薄くても許されてきたということです。
(千葉氏)はぁ。しかしながらですね、ここに入っているこの冷却のための水というのは、放射性物質に汚染されてはいないんですか?
(小出氏)えー、1次系の水は汚染されていますが、2次系が海水なのです。それで実は2次系の方が圧力が高いので、仮にそこが破れたとしても放射能が海水の方に移ることはないという、そういう想定のもとで設計されてきました。
(千葉氏)でも、実際に移ったことというのは無いんですかね?
(小出氏)えっと、あります、もちろん。ありますというか、トラブルは様々にあったわけですし、原子力発電所の中で放射能で汚れた水というのは日常的に出てきているわけで、一部処理できない水は意図的に海水に捨てるということも、もちろんこれまでも行われてきました。
(千葉氏)はぁ・・・。そのような状況だったわけですね。
(小出氏)はい。
(千葉氏)あと、もう一問すいません、お願いします。大飯原発の話に戻りますけれども、大飯原発では今保安検査という検査が行われているというふうに伝えられていまして、この全国の原発で3か月に1回行っている検査ということなんですが、これはどんなことを検査するんでしょうか?
(小出氏)それはどこでもやっています。私は京都大学原子炉実験所で働いていますが、保安検査というものは3か月に1回ごとに受けることになっていまして、私の原子炉実験所は文部科学省から受けていますし、大飯原子力発電所、他の原子力発電所は経済産業省から受けることになってるはずだと思います。それを手続きに沿った検査というものがもともとやらなければいけないし、そうやってやってきたのです。
 ただしそんなことをどんなふうにやっても、事故が防げなかったということが事実として示されているわけで、やったから安全ということとは違うと思っていただきたいと思います。
(千葉氏)うーん。この検査自体は特に再稼働に向けて動き出した第一歩というわけではなさそうですね。
(小出氏)はい。と思います。
(千葉氏)判りました。どうもありがとうございました。
(小出氏)ありがとうございました。
【以上】


【関連記事】
首相、大飯再稼働を近く決断 関西容認、おおい町前向き
共同通信(2012年5月30日)
 野田佳彦首相は30日夜、関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の再稼働について関係3閣僚との会合で「関係自治体の一定の理解が得られつつある」と述べ、これまで再稼働に慎重だった関西圏の自治体の理解が進んだとの認識を示した。おおい町の時岡忍町長も再稼働に前向きな姿勢を表明した。野田首相は、福井県やおおい町の同意取りつけに全力を挙げ、近く再稼働の決断を自ら下す考えだ。

 次回の首相と3閣僚との会合は6月上旬にも開く方針。

 関西広域連合は同日午前、細野豪志原発事故担当相らから、経済産業副大臣ら政務三役を現地に常駐させるなど安全監視体制の強化に関する説明を受けた後、再稼働を事実上容認する声明を発表した。声明は「政府の暫定的な安全判断であることを前提に、限定的なものとして適切な判断をするよう強く求める」とし、広域連合の姿勢転換で、野田政権は再稼働への最大のハードルを越えた。

 福井県の西川一誠知事は30日、広域連合の声明を受け、細野担当相の説明を求める意向を示した。

 一方、おおい町の時岡町長は報道陣に「県の原子力安全専門委員会が安全を確認すれば、再稼働に同意する」と明言。

 野田首相は3閣僚との会合で「安全が確保された原発は再起動させる必要がある」とあらためて強調。
http://www.kyodonews.jp/feature/news05/2012/05/post-5797.html



橋下市長、限定再稼働で一転容認 大飯原発、再び争点化も
共同通信(2012年5月31日)
 原発再稼働に反対し続けた橋下徹大阪市長が31日、夏季限定の条件で関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の再稼働を容認した。姿勢を一転させた背景には、政府側から一定の譲歩を引き出したことや、衆院の解散時期が読み切れないため、再稼働問題を秋に再び争点化しようという思惑もありそうだ。

 橋本市長は3月下旬、「民主党政権が再稼働で来るなら大阪市は反対のオプションを示す。最後は総選挙で決着をつければよい」とし、次期衆院選と再稼働を絡めた発言が目立ち始めた。

 4月には、野田佳彦首相の手順に不満を爆発させ「次の選挙で民主党政権には代わってもらう」と明言。大阪維新の会も次期衆院選で民主党と全面対決を辞さない方針を確認した。

 変化の兆しが見えたのは5月19日、大阪市内での関西広域連合の会合。橋下市長が細野豪志原発事故担当相に1~3カ月だけの限定稼働を提案。市長は再稼働が避けられないとの判断から、次善の策として初めて“落としどころ”を披露した。

 同月30日には、広域連合が限定的再稼働を事実上、容認する声明文を発表

 翌朝、市長は発送電分離など電力供給体制を見直す政府の取り組みを譲歩と受け止め「ほぼ満足」と評価。同時に「秋ぐらいをターゲットに、しっかりチェックする」と述べ“第2戦”も予告した。
http://www.kyodonews.jp/feature/news05/2012/05/post-5808.html

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