※この記事は、12月11日 【動画・内容起こし】石橋克彦氏講演会「『若狭原発震災』前夜の私たち」@名古屋市女性会館ホール【その①】の続きです。

<40:50頃~>
(神戸大学名誉教授・石橋氏)
 「福島原発事故で亡くなった人はいないじゃないか」
という人が居ますけれども、作業員で被曝じゃなくても何人かいらっしゃいますし、それから、双葉病院とかでは、強制的に避難しなきゃなんなくて、50人も途中で命を落としたということは、これは明らかに原発災害で命を落としたわけです。
 それから、大熊町とかああいうところで津波で被災して、まだ息があっていた人が救出されずに見捨てられて、遺体もまだ収容されないという方も居るわけだから、これも本当に原発震災です。
 そういうことが若狭湾で起こりかねないというわけで、これちょっとまとめみたいなもので、この後説明することも含んでまとめていうと、これまで言ったことも含めてですけど、若狭湾周辺は、アムールプレート東縁変動帯の地震活動帯で密集していて、過去にM7以上の地震が発生していて、その間に大地震空白域っていうのがあって、そこに原発が林立して、活断層の真上にもあると。13基+もんじゅですね。そういうものがあって、この基準地震動Ssはこのあと説明しますけど、どんな地震が原発の近くで起こるかどうか。それに対してどの程度の揺れに対して耐震設計をすればいいだろうかという、そういう想定がですね。地震そのものに対する想定自身も不十分だし、それがもたらす揺れ、耐震設計の基準とする地震動の過小評価の恐れがかなり強い。
 これ、ガルっていうのは、地震による揺れの強さを加速度っていうので見た時に、地面が揺れ動く加速度の最大値をよくこうやってガルというのは、加速度の単位なんですけど、それの時々刻々加速度の値が変わりながら地面が動いて揺れているわけだけど、それの最大値がここに出した数字で、敦賀では800、もんじゅ760、美浜が750、大飯700、高浜550。こういうのが耐震設計の基準にする地震動。
 地震動っていうのは、地震の揺れですね。想定されている。

 だけど、現実に2007年に柏崎刈羽原発を7月16日に中越沖地震というのが襲った時、柏崎刈羽原発の1号機で実際観測された地震の揺れの最大加速度は1699ガル。
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 これは観測値から東電は推計した値なんですけど、基準地震動と比べるべき揺れの推計値は、1699ガルです。現実にこういうのが起こってるわけで、後から説明するように、地震の想定とか不十分なので、ここに書いた若狭湾岸の原発の基準地震動は、やっぱり過小評価だと思います。
 津波の想定も甘いわけで、これはちょくちょくニュースになりますけど、過去に若狭湾にも津波があったんだけれども、3.11まではものすごい過小評価でした。
 高浜原発なんていうのは、津波74㎝とかですね、号機によって違うんだけど、1m34㎝とか、そんなのはちょっと冬に波が荒ければ来るんじゃないの?と思うような値しか想定してませんでした。
 まぁ今は、安全対策を含めてもっと高い津波を想定してると言いますけど。
 それと非常に問題なのは、老朽化原発が多いんですね。
 福島もそうですけど、原発銀座と言われるところは、福島と若狭湾。せっせ、せっせと。いち早く敦賀原発1号機は、現役の日本の原発の中で一番古いわけだけど、その後関電が大阪万博に間に合わせる、『大阪万博で原子の火を灯そう』とかいて一生懸命作って。
 あの時は実は、東電の福島と関電の美浜が競争していて、その競争の結果、東電は、何ていうか、「考え落したところがでてきちゃった」ということを当時の副社長かなんかが告白してましたけど。
 そういう競争をしてたので、関電がガンガン増やしていったから、古い原発が若狭湾に集中していて、運転歴35年以上の原発が全国で11基あるんですけれども、そのうちの6基が若狭湾岸に集中しています。
 今月の12月1日に美浜3号機が35年になったので、現在11基あるわけだけど、6基が集中してる。
 大地震で大規模な放射能放出事故が起こった場合、この地震が本当に大きいと、1891年の濃尾地震、M8.0みたいながポッと若狭湾を中心にしてドーンと起こってしまうと、原子炉1基が事故を起こすなんてものじゃなくて、複数の・・・今回の福島みたいに複数の原子炉が大事故を起こして、放射能がたくさん出てくるということもありうるわけで、そうしますと、これもちょっと関西バージョンなので真っ先に琵琶湖なんですけど、琵琶湖の水が汚染されますよね。それほどの大事故じゃなくても琵琶湖の水は汚染される。そうすると、もう京阪神は水が飲めなくなる。
 もちろん名古屋だって、北西の風によって名古屋の水源、具体的には知りませんけど、まぁ木曽山川の源流だって、流域だってもう全部汚染されるわけで、名古屋でもまず水が飲めなくなる。本当は水が飲めなくなるどころではないんだけど、まずは水が飲めなくなる。
 琵琶湖の水が汚染されると、実は神戸の、私は神戸の須磨区というところに住んでいるんですが、1996年に筑波研究学園都市から須磨区へ引っ越して、まだ引っ越し荷物も何も来てない時に中古の一戸建てを買って、身の回りのものだけで夜帰って、洗面所の水を出して水飲んでですね、
「さすがに六甲の水はうまいな」
とか言って。
 ところが、須磨区の水、すぐ裏が六甲ですから六甲山の水だと思ったら、実は後から聞いたら琵琶湖の水なんだそうで、
「いや、そう言われれば、ちょっとかび臭いな」

 ま、そういうわけで、とにかく原発周辺はもちろん大変なことです。急性死が多数出て、さきほどの大雪になってる時だったりしたら、もう大変ですけど。広い範囲でもちろん急性死もかなり広い範囲まで広がるけど、晩発性障害というのが非常に広い範囲で出る。
 とにかく逃げなきゃいけないわけで、まさに関西広域連合を含んで西日本全域ですね。気象条件によって。最悪の場合は首都圏まで避難しなきゃいけない。だけどどこへ避難したらいいのか。やっぱり本当に絶対こういうことはしちゃいけないんだけど、このあいだ亡くなった小松昭夫さんの『日本沈没』。あれは私が助手になったばかりの時に、1973年に出た本で、「本当に日本は沈没するんだ」とその時本を読んで思いましたけど、そういうことは地球物理学的にはないんだけど、こういうことが起こると、実質的な日本沈没になるわけです。
 あの本の最後に書いてあったように、日本人が世界から呆れかえられながらも、救出にはいっぱい来てくれるかもしれないから、アメリカ軍航空母艦だとか、中国の航空母艦だとか、ソ連・ロシアの船、世界中の船に乗って宛てもなく、アフリカとか南アメリカとか、そういうところへ避難していく、そういうのも決して荒唐無稽ではないと思います。
 そういうことに比べれば、もうどうでもいいのかもしれないけど、古代の日本人の故郷というか、古い都、難波、飛鳥、大和、近江、京都には何十年も立ち入れないことになるわけで、更に日本海全域が汚染されて海流に乗ってかき回されて、さらに津軽海峡を通って太平洋に出たりとかするけど、日本海全域、シベリアの海岸の朝鮮半島の対岸も大変に汚染される、そういうことになるわけです。
<51:00頃~>
 原子力発電は、ざっといっときますとご承知と思います。それと最初にお断りしましたけども、今日お集まりの方は関心が高くて勉強されて、私なんかよりも詳しい方もいっぱいいらっしゃると思うんですけれども、一応、今まで名古屋でのんびり暮らす、「あんまり地震と原発なんて考えてなかったけど、ちょっと今日は聞いてみようか」というような方もいらっしゃるかもしれないので、そういう方を念頭に置いて、基本的なことをお話しようとしてるんですけど、原子力発電というのは、発電の基本は火力発電と同じで、要するに高温高圧の蒸気で発電機に直結されているタービンという羽根車式の原動機を回して電気を起こすというわけですが、水を蒸気に替えるための熱エネルギー源として、火力の場合はボイラー。ボイラーの中で化石燃料、今は化石燃料だけではありませんけれども、再生資源みたいなものを使ってるものも、そういうものを燃焼して水を蒸気に替える。その時にCO2=二酸化炭素が必ず出るというわけです。

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 原子力のほうはそれに対して、原子炉という中で核燃料の核分裂連鎖反応の莫大なエネルギーで水を蒸気に替える。従って「CO2は出ない、だからクリーンだ」というわけですけど、そのかわりに必ず、少なくとも発電してるときはCO2は出ませんけど、ウラン燃料、核燃料を採掘して加工して原発作って、処分してとかそういう時には、やっぱりCO2は出るわけだから、生涯クリーンというわけにはいかないんだけれど、それとは別に核分裂生成物といういわゆる死の灰というものが、これは必ず必然的に出るわけですから、決してクリーンとは言えないと思います。
 その核燃料というのが、基本的にはウランという物質の同位元素、ウラン235というものを使うわけですね。それの原子核の中に陽子(92個)と中性子(143個)というものがこういう数で入ってるわけですけれども、それが核分裂というものを起こしやすい。ウラン235の原子核、この人間が長い間使ってきた物質をいじってきたのは、化け学反応という原子核の周りをまわってる電子が元素、原子と結合したりなんかしたりする、そういうレベルで。そしてこの原子核という莫大なエネルギーを秘めたモノの中には手を突っ込まなかったわけですけど、それが原子力では、その原子核の中に人間が手を突っ込んでしまって、ウラン235の原子核というのは、遅い中性子というのが来ると、それを吸収して、ですから中性子143個だったのが、もう一個ここに入ってくるから不安定になってビヨンビヨンビヨーンと振動して、そして二つに千切れちゃうわけです。だから、違う物質の違う原子核が二つ出来て、そしてその時中性子が余って2個とか4個とか飛び出していく。その時に莫大な熱エネルギーを出す。
 ちぎれた二つの別の物質の原子核、というか違う物質ですが、それが核分裂生成物といいますけども、それが必ずできて、莫大な熱エネルギー。1個のウラン235の原子核が核分裂すると、約1兆分の?カロリーという莫大な熱エネルギー・・・なんつったって全然わからないですよね。
 それを判るようにすると、ウラン235を1g持ってくると、それの中には2.5兆×10億個の原子核があるんだそうで、ですからそれが核分裂すると、
2.5兆×10億倍のエネルギーが出るわけだから、200億カロリーの発熱があって、それもよくわからないけど、それは石炭約3トンに匹敵するんだそうで、ウラン1gが石炭約3トンに匹敵する。それはまぁ、確かにエネルギー源としてみればすごいわけです。

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 さらにもう一つすごいのは、こういう核分裂反応が、わずか1千万分の1秒で起こるわけで、それを続けさせてエネルギーを取り出しているという、すごいわけです。なんかちょっと狂うと、この1千万分の1秒の単位で修正してやらないと暴走しちゃったりするわけなんだと思います。
 あくまで核分裂連鎖反応っていうのは、出てきた・飛び出してきた中性子が、次の核分裂を起こすという、次々にやることですけれども、それをコントロールしないでやると、2から4個出るので、それが次々に核分裂を起こすのでネズミ算式に核分裂が進行して、瞬時に爆発的にエネルギーを開放する。それを利用したのが原子爆弾で、広島原爆はウラン235、約700gで約14兆カロリーのエネルギーを出して、原爆の場合は上空で爆発しましたから、放射線だけじゃなくて熱線とか爆風とかそういうものが非常に破壊力を持ったわけだけど、とにかく町を焼き尽くして莫大な人たちを殺傷したわけです。
 それは辞めて、この2~4個飛び出したうちの1個だけを使って、次の核分裂が起こるように、その都度1個だけにとどめておけば、中性子1個が次の核分裂を起こすという制御で、連鎖反応を爆発的にすることなく持続できる、それを臨界というわけですけど、そうすると平和的にエネルギーが取り出せるというんですが、それをやるのが原子炉というものです。
 従って、中性子を吸収するための制御棒というものが不可欠ですし、それからそこから飛び出したやつは、すごく高速なんだけど、それを遅い中性子にしてやるために、減速材というものが必要。これが水なんです。
 それから、熱がどんどん出ちゃいますから、核分裂生成物も自分でまた熱をエネルギーを出して、勝手に違う物質に変わっていく性質を持ってますから、絶えず冷やしていなくちゃいけなくて、冷却材が必要です。これは日本では、みんな水を使ってるわけです。
 もちろん燃料棒・燃料集合体ももちろん必要。そういうものが備わったのが原子炉なわけです。
 日本で現在稼働中の商業発電用原子炉というのは、全部この減速材・冷却材に水を使っているので、それは当然その水が蒸気になって、若狭湾岸にたくさんある加圧水型=PWRという場合は、直接じゃないんだけれども、1次系・2次系って分かれてますけども、そういう水が主役を演じて、減速材・冷却材、それから熱エネルギーを取り出すものとして使われている。そういう水のことを『軽水』といいますので、『軽水炉』というのが日本の原発です。
 この核分裂生成物っていうのは、非常に不安定な原子核でありまして、要するにストロンチウムだとかヨウ素だとかセシウムだとか、そういうのがウランが分裂してできるわけなんですけれども、それがまた自分で放射線を出して、例えば電子の流れであるとか、電磁波であるとか、アルファ粒子なんてというものを出して、違う物質に変わっていく性質を持っていまして、それが強い放射能を持っているわけです。その放射線が細胞とか組織とかDNAとかそういうものに悪さをするので、『死の灰』ともいいます。

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 それが半分になる時間が半減期というわけですけれども、それが非常に短い。原発事故が起こって最初にパッと出てきても、非常に短時間のうちに違う物質にドンドン変わっていて、最終的に安定の物質になっちゃって、あんまりは遠くまでが害を及ぼさないものもありますけれども、非常に半減期が長いものもあって、例えばセシウム137なんていうのは、30年とかですね。つまり30年経たないと、このセシウム137の出てきたものが半分にならないというわけですね。
 『放射能』ってよくいいますけど、『放射能』というのは放射線を出す能力、或いは性質のことをいうのです。つまり原子核が放射線を出して、自発的に崩壊する性質、それのことを『放射能』というので。
 そういう放射能を持つ原子核や元素や物質が、放射性原子核とか放射性元素、放射性物質というわけです。
 だけど、便宜上よく放射性物質ということを放射能ということもあって、それはお互いに理解して使えばいいんですが、ただ、放射能を浴びるなんていうときはちょっと注意が必要で、放射線を外から浴びるのか、或いは放射性物質を浴びちゃってそれが体に付着する、或いは体内に吸収する、そして内部被曝のことになるのか、そこのところはちゃんと厳密に分けなければいけないと思います。
 100万キロワット級の原発っていうのが大体標準ですけど、138万キロワットなんていうのもいくつかあるけども、それから古いやつは40何万キロワットとか小さいのもあるけど、平均は100万キロワット級ですが、そういう原発を1年間運転すると、原子炉の中に、原子炉っていうのはやや抽象的な概念で、現実には原子炉圧力容器の中に燃料集合体、制御棒、冷却材・減速材。そういうものが入っているわけですが、その炉内にですね、広島原爆700発から1000発分くらいの死の灰が溜まるんだそうです。
 ですから、大事故の場合、それが全部出てくるとは限らないけれど、少ない場合は5%くらいしか出ないとか。だけど大事故だと7,8割出るとか、或いは全部爆発的に原子炉が爆発してしまえば全部出てくるとかだけど、非常に莫大な死の灰が出てくるわけです。

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 放射線というのは、さっきちょっと言った、アルファ線・ガンマ線・ベータ線・中性子線とかがあって、どういうものであるか、透過力がどうであるかとかありますけど、これは省略します。
 要するに原発事故っていうのは、原子炉からの放射性物質、放射能の大量放出が怖いわけで、そういうことが起こる大きな非常に厳しい事故を『過酷事故=シビアアクシデント』というのに2種類あって、核分裂連鎖反応のコントロールのもとに粛々と進んでいたのですが、コントロールから外れちゃって暴走しちゃう、核暴走。そうすると、もうそれはその1000万分の1秒の単位で、バーンと暴走してしまう。最後は核爆発みたいになってしまうこともある。
 それからもう一つは核分裂生成物の熱を莫大に出してるから、冷やしてなきゃいけないんだけど、冷却材、要するに水が失われるのを配管破断なんかで水が出ちゃうと、冷却材喪失事故といって、崩壊熱を冷やせなくなる。そうすると、たちまち燃料集合体、或いは燃料棒の温度が2000℃くらい、内部はいつも2000℃くらいなんだそうですけど、2000℃もあって解けちゃって、外側を被覆管っていうのはジルコニウムで覆ってるわけですけど、そういうのも溶けちゃって、それが水と反応したり、水素が出てきて、水蒸気爆発が起こったり、水素爆発が起こったりしますので、この2つは絶対に起こしてはいけない。
 それで、とにかく何か異常があったら、まず核分裂連鎖反応を止める。制御棒を一斉投入して止める。
 日本の軽水炉に2種類ありまして、沸騰水型原子炉というのと、加圧水型原子炉というのが2種類あります。
 2007年の柏崎刈羽も、今回の福島も、東京電力はみんなこの沸騰水型でありまして、それに対して関西電力系統は加圧水型原子炉。敦賀は1号が沸騰水型で2号が加圧水型ですけれども、だから、若狭湾にあるのは、1基を除いて全部加圧水型ですが、中の構造が少し違う。
 沸騰水型の場合は、この炉心の水が、そのまま蒸気になって、だから放射性物質を含んだ水が発電タービンを回す。
 加圧水型の場合は、もともと潜水艦の動力用に開発された比較的コンパクトな原子炉圧力容器になってるわけですけれども、原子炉の中の水は外には出ないで、その熱で、これは蒸気にすごい圧力をかけていって160気圧くらい圧力をかけていて、熱水のまま循環していて、その熱で二次冷却水というのを蒸気にして、それでもって、一応原理的には二次冷却水は蒸気になったものには放射能は含まれていない、そういうクリーンな蒸気でタービンを回す。

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 そういう違いがあります。 
 でもいずれにしても制御棒で連鎖反応を止める。それからとにかく冷やす。燃料棒、燃料集合体の熱を冷やす。
 だけど万一放射性物質が炉心から外へ出ちゃうとこまるから、とにかく閉じ込める。そのために非常に重要なのは、格納容器ですね。
 だから中心は原子炉圧力容器。原子炉圧力容器の中に原子炉が入ってるわけですが、その外を格納容器というのが取り囲んでいて、それから外には絶対出さない、漏らさないということを狙っているわけです。
 大地震に対しても、その「止める・冷やす・閉じ込める」機能を確保しましょうということで、ここから耐震設計の話ですけども、日本の場合、1978年に発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針というのが出来まして、実はこれができる前からもう作られていたんですけど、ある意味ではこれができる前から使われていた耐震設計のやり方を集大成したようなものが、この指針といってもいい面もありますけど、とにかく一応はそういう指針を78年に策定して、そこで明文化した。
 だけど、これは非常に古いもので、1995年の阪神淡路大震災の時に、非常に多くの市民が心配して、
『「大丈夫だ、日本では絶対大丈夫だ」と言っていた耐震工学者が、高速道路が転倒したりなんかしたから、原発だって危ないんじゃないか』
と言って、
『昔の指針を改めてくれ』
って言ったんだけど、なかなか改まんなかったけど、やっと2006年の9月に新しい指針、名前は同じですけど中身は変わりました。
 基本的な考え方は同じで、この赤っぽく書いてるのが新しい指針です。
 ざっとそれについて言うと、とにかくある原子力発電所で想定される最大の地震の揺れが来ても、(地震の揺れ=地震動ですね。)それが来ても『止める・冷やす・閉じ込める』の機能を確保するように作りなさい。耐震設計して施工しなさいというわけです。
 まずは地下の地震、地下の自然現象である地震を想定します。それを検討用地震といって、今考えている原発に影響を及ぼすような最寄りの大きな地震を何種類か、いくつか検討用に想定して、それぞれから原発敷地にやってくる地震の揺れを計算して、耐震設計の基準にする地震動を基準地震動とというのを策定する、それをSsと呼んでいます。それは非常に中身は複雑でして、何ガルっていうその最大加速度だけでは表せない、いろんな複雑な性質を含んでいますけれども、そういうものを作り、実はややこしいことは省略しますが、
『解放基盤表面』ということ=仮想的な地盤というか地面の下の岩盤の表面を想定して仮定して、そこでの揺れとして、このSsというものを決めます。
これ、後で多少福島の話で出てきます。
 そういう基準地震動、これが原発で将来予想される最大の地震の揺れなわけです。『これ以上は来ない』というわけです。

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 そういう『これ以上は来ない』ような最大の揺れに対して、原発の施設にそういうものがものすごくあるわけですけど、それが大丈夫なようにコンピュータで計算したりなんかして設計して、或いは既に出来てしまったものは大丈夫かどうかをチェックする、動的応答解析、そういうことをやっているわけです。
 それで一応、日本の原発は全部大丈夫だということになっているわけです。
 福島は、福島第一原発は、「大津波、想定外の大津波が来たからああいう大事故になったのであって、津波さえなければ良かった、地震に対しては大丈夫だったんだ」ということが、3月11日直後から盛んに言われています。
 しかし、福島第一原発は、大津波以前に地震動、つまり地震の揺れで重大事故が生じた可能性が非常に大きい。
 もしそうだとすると、それは耐震設計審査指針そのものの妥当性、それからそれに基づく、それによって、それにのっとって、日本全国の原発の耐震バックチェックというのを遡ってチェックをして、「大丈夫だ」っていうことにしてる。そのこと自体も重大に疑われるということになるんです。
 実は原子力安全・保安院という規制機関と東京電力、更にはマスメディア。マスメディアの問題は、ものすごく重大だと思うんですけども、そういうのは大津波原因説でずっと言ってました。
 つまりマスメディアが独自の取材というのをしないで、保安院と東電の発表することをそのまま流しているという面が非常にありますから、こういうことになってきたわけです。
 だけど、田中三彦さんという現在はサイエンスライター、科学部門のライター、それから翻訳をしてる方ですけど、もともと原子炉の設計技術者で、福島原発の4号機原子炉圧力容器を設計した方ですが、その方が3月の20日前後に、主層官邸を通じて公表された福島原発のプラントデータがあるわけです。3月11日の原子炉圧力容器の中の水位とか圧力とか、それからその外側の格納容器の中の圧力とか、そういうデータが非常に不完全ながらも、断片的に公開された。
 それを見て、「非常におかしい」と思って、いろいろ分析をなさって、いち早く、『世界』と『科学』の5月号。これは『世界』4月8日、『科学』は4月26日くらいに発売されましたけど、そこで大津波の前に重大事故が起こっていた可能性というのを書き出して、それ以来たくさん書いてます。発売になったばかりの『世界』の1月号、12月8日ころに発売になったものにもまた書いてるし、『科学』っていう岩波の雑誌では、9月号とか何度も書いてます。
 さらに一般の方が読みやすいのは、『原発を終わらせる』っていうまさにちょっと私が編纂をした『原発を終わらせる』という岩波新書の冒頭で、田中三彦さんが説明をしています。
 要するに1号機は、地震の揺れで配管破損が生じて、そこから冷却材=水、水と蒸気が漏れて、従って冷やす機能を失った。
 それから2号機は、圧力抑制室というよくテレビやなんかで、新聞でもご覧になったでしょうけど、原子炉の構造として格納容器というのがあって、その下に大きなドーナツみたいな圧力抑制室=サプレッションチェンバー、サプレッションプールというものがありますけれども、そこが地震の揺れで損傷して、圧力抑制室は、格納容器と繋がってますから、さっき言ったように格納容器というのは閉じ込める砦です。でもそれが一部破損して、閉じ込める機能を失った。
 そういうことがおこたんだろうということです。

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 私はこの話は、3月から聞いていますけども、地震学的には、これ十分あり得る話だなと思って、私もずっとこの田中さんの話を講演でも、書いたものの中でも、今日お手元の例えば朝日ジャーナルというのの5月24日に発売になったものの中にも書いてますけど、田中さんの説を簡単に紹介した上で、地震学的にあり得ることだと言ってますが、なぜかというと、どう有り得るかというと、揺れがもちろん強かった。柏崎刈羽みたいに滅茶苦茶に強かったわけではないけれども、十分強かった。さらに注目すべきは、非常に長時間揺れた。激しく長時間揺れた。そうすると、繰り返し揺らされますから、少し太い針金なんかは工具が無いとき、何度も何度も折り曲げていると、ついにそこからちぎれますよね。ああいうふうに、繰り返し荷重というのをかけると、疲労破壊というようなことが起こりやすくなるわけで、だから地震学的にも十分起こり得ると思っています。
(進行の方:すいません!まだ40分あるので、お願いします)
(石橋氏)
 はい。40分ってことは・・・。
 実は2009年に原子力安全・保安院という、これは規制官庁ですね。今問題になってるのは、規制官庁が経済産業省という原子力推進のところに属してるのは問題だっていうことですけれども、その原子力安全・保安院と、原子力安全委員会、これは内閣府かな。それとがダブルチェックをやったわけですけど、東京電力が2006年9月に改定された新指針と言ってますけど、新しい耐震設計審査指針にてらして、耐震安全性をさかのぼって、
「既にできちゃったものだけれど、だけども新しい指針に照らしても大丈夫ですよ」
という、そういう耐震バックチェックの報告書を出した。
「出せ」
って保安院が言って、全部電力会社が2008年くらいから出してるわけですけれども、それを審査して、実はそこにまだ津波が盛り込まれてなかった。中間報告なものだから、地震の揺れまでしか話がいってなくて、津波の話は最終報告でやることになってて、手遅れになった
ということがありますけど、揺れに関しては、2009年に審査して、「東電の言ってることは妥当である」と、この後で出てきますけど、600ガルという基準地震動に対して、耐震安全性は確保されている、つまり『冷やす・止める・閉じ込める』という機能が確保されているということを認めたわけです。
 認めたのにもかかわらず、多分それは破られたということで、結局、改定耐震指針と全国の原発の耐震バックチェックというのが当てにならない、信用できないということに・・・なるでしょうということを、私はずっと言ってきました。
<01:19:30頃>
 私に声が掛かった最初の講演は4月の14日かだったけど、それ以来講演とか書くものではずっとこれを言ってきました。
 それをちょっと言いますと、これ、横軸は時間です。何時何分じゃなくて、ここをゼロとしたとき、50秒、100秒、150秒という、これは時間の長さは全部合わせてあります。縦は加速度で見た時の揺れの強さです。
 これは地下の地震計の実際の記録ですけども、時間とともに小さく揺れたり大きく揺れたりするわけですけれども、この加速度の値がこう書いてあって、このスケールも皆合わせてあります。
 この真ん中は何かというと、これは東電が、さっきちょっと言った『解放基板表面』というのが福島の場合は、深さ約200m、正確には196m位。かなり深いんですね。
 これがね、深いっていうことは要するに地盤が悪いということなんです。多分若狭湾側は割とこんなに地盤は深くないと思いますけど、これまた面白い話がある・・・。
面白い話してると時間が・・・
<会場笑い>
 中部大学の重役、技術系の重役さんと話をしてる時に、浜岡原発は非常に地盤が悪いと皆言うわけです。急にその人がムキになって、
「皆さん、浜岡の地盤が悪い悪いっていうけど、東京電力なんかもっと悪い!」
<会場笑い>
 確かに柏崎刈羽も福島も、この解放基板表面がうんと深いということからも判るように、地盤が悪い。
 その深さ約200mの解放基板表面で、基準地震動Ssで最大加速度600ガルというのを決めたわけです。新たに決めたわけです。
 そしてこういう揺れがですね、解放基板表面に来たとしても、上物、原子炉建屋、それからその中の設備、配管。そういうものは大丈夫だといったわけですが、それに対して、この基準地震動、こういう揺れが来た時に、2号機の原子炉建屋、つまり原子炉が入ってるデカいビルディングですね、あれの基礎版っていうのは、地下1階の床ですけども、そこがどのくらい揺れるかっていうと、そういうのを応答加速度というんですけど、基準地震動に対する応答加速度、それの「最大値は438ガルですよ」って言って、「そういう揺れがきても、その上に乗っかってるいろんな機械は大丈夫です」って言ったわけです。
 ところが3月11日に現実に観測された原子炉建屋基礎版の揺れは、2号機、東西方向、水平方向の揺れですけど、こういうふうに揺れて、最大加速度550ガルだったわけです。ここで。上に揺れるか下に揺れるかは、ただ方向が違うだからどっちでもいいんだけど。
 ですから、耐震設計、その基準地震動600ガルを
「これ以上は揺れないよ、これ以上の地震の揺れは無いよ」
って言って、それに対して、
「最大応答値は438ガルですよ」
って言ってたのが、550ガルも揺れたわけですから、この段階で間違っているわけですよね。
 それともう一つ、これはですね、異常なヘマがあって、地震の記録がここで途絶えちゃったんですね。
 東京電力は、この記録ばっかりを見せます。そうするとここで地震の揺れがストンと終わったように見えますけど、実はこれは地震計っていうか機械じゃなくて、収録システム=ソフトウェアがショートして途切れちゃったと。本当はもっとこの後揺れたはずです。

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 それがわかるのは、地下の地震の記録。地下の地震の記録を見ると、地下のやつはヘマをしないで記録が全部とれていて、こういうところで原子炉建屋から何百メートルか離れたところの地下200m、だから、解放基板表面に相当する深さの記録ですけど、そこではここが最大で355ガルなんです。ということは、当然この地震波が上へ伝わって、2号機、この後もまた揺れて、強い揺れが出たんです。だから、激しい揺れの時間が60秒とか長く続いた。さらに全体では3分くらい続いてますけど。
 というのは、東北地方の太平洋沖地震というのは、なにせ震源域の長さが450㎞もあって、破壊が1か所から始まって、両側に伝わって、その間中地震の波は出してるんだけど、要するに震源域から3分くらい地震の波は出し続けましたから、それが福島でも東京でも仙台でも、その時間+α揺れ続けたわけで、だから福島の地下でも3分くらい揺れてますけど、当然原子炉建屋の基礎版も長いこと揺れて、その中で特に激しい揺れも60秒くらいあったでしょう。
 ところがこの基準地震動の激しい揺れは、たった30秒くらいなんですね。だから、この意味でも、この耐震設計は、裏切られている可能性があります。
 さらに言えば、1966年に1号機が設置許可されたときの、ちょっと名前が違いますけど、地震基準動みたいなものは、最大が265ガルです。それで耐震設計をしたわけです。
 ところが1995年に阪神淡路大震災の後で、古い指針が78年に出来てましたら、それに照らし合わせて「370ガルでも大丈夫ですよ」ということを言った。
 そしてさらに2009年に新しい改定された指針に照らし合わせて、「600ガルでも大丈夫ですよ」と言った。
 こうやって「大丈夫ですよ」というレベルがだんだん上がって来たけど、
「それもほんとかいな?」
っていう感じがするわけです。
<01:26:15頃まで>

【その③】に続きます。
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